第37章

高橋遥は黙って振り返り病室へ入った。

だが、彼女の瞳に浮かんだ涙は床に落ちていった。

病室内で、稲垣栄作の携帯が鳴った。古屋さんからだった。

稲垣栄作は電話に出ると、古屋さんの声にはかすかに不満が混じっていた。

「稲垣社長、内田先生が一時間後に心縁ホテルでお会いする予定です。今から内田先生をお迎えに行きましょうか?」

稲垣栄作は淡々とした口調で「ああ」と一言返しただけで、電話を切った。

彼は携帯をそばに置き、高橋遥を見る目には意味ありげな色が浮かんでいた。「内田先生がB市に来られたんだ。君はバイオリンが上手いと聞いている。もし先ほど提案した条件を受け入れるなら、内田先生に師事する...

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